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ソポクレース著、呉茂一訳『アンティゴネー』(岩波文庫、1961年)

概要

 ソポクレスのオイディプス一家の悲劇を扱った3作品の中の、年代順でいえば第1作目であり、内容的には『オイディプス王』、『コロノスのオイディプス』に続く話。主人公であるアンティゴネーは、テーバイの王でありまたアンティゴネーとポリュネイケスの叔父にあたるクレオンが出した「ポリュネイケスの葬いをしてはならない」というお布令に反し、実の兄であるポリュネイケスの葬いをしてしまう。我々は国家の法に従い葬りを控えるべきなのか、それとも神の定める掟に従い葬いをするべきなのか。非常に倫理的な問題を孕んだ、ギリシア文学の古典中の古典。

本文からの抜粋

イスメーネ「何ですの、確かに何か、よくない報せを秘しているのね。」

アンティゴネー「だってお葬いを、兄さま方に、クレオンさまが、一人はちゃんとしてあげても、もう一方へはしないで酷い目を見せてんでしょ。エテオクレスのほうは噂のようでは、正しい道と掟とをちゃんと守って、お墓に納めてさしあげたけど、―かたのとおり、亡骸は、町じゅうにもう布令を出して、けして葬いをして葬ってはならない、また泣き悼んでもいけない、それどころか、弔いもせず打っちゃっといて、見つけた鷹や鴉のいいご馳走に、好きなまま食い荒さそうというのですって。」
p.9


クレオン「……エテオクレスは、この国を護って戦い、槍の功名隠れもなく、討死された方であるゆえ、墓を築いて葬ってから、最高の死者を送るにふさわしいあらゆる儀式を執り行う。一方、その兄弟、すなわちポリュネイケスは、亡命から立ち戻った身で、父祖の国と氏族の神の社に対し、火を放ったうえ徹頭徹尾焼き払おうと企んだもの、して、身内の者の血を舐ってから、余の者は奴隷として連れ去ろうとした。それゆえ彼へは、国じゅうに布令を廻し、かならず墓に葬っても、泣き悼んでもならぬと命を下した。されば埋めずにほうっておき、その身を鷙鳥や野犬に啖わせ、見せしめのため恥を曝させようというのだ。……」
p.20


クレオン「これ、お前は、頭を低く垂れているが、ほんとうにしたのか、それとも覚えてはいない、と言うのか。」

アンティゴネー「ええ、むろんしました、しないとはもうしません。」

クレオン「[番人に向かって]お前はどこへなり勝手に出て失せろ、重い咎めはもう晴れたから。
 [アンティゴネーに]さあ言いなさい、要領よく手短にな、そうしたことをしてはならんという布令を、知ってのことか。」

アンティゴネー「知っていました、知らないわけがありまして。はっきりしたお布令を。」

クレオン「では、それなのに、大それた、その掟を冒そうとお前はしたのか。」

アンティゴネー「だっても別に、お布令を出したお方がゼウスさまではなし、彼の世をおさめる神々といっしょにおいでの、正義の女神が、そうした掟を、人間の世にお建てになったわけでもありません。またあなたのお布令に、そんな力があるとも思えませんでしたもの、書き記されてはいなくても揺るぎない神さま方がお定めの掟を、人間の身で破りすてができようなどと。」
p33-34


コロス「一生のあいだ、不幸を知らずに過ごす者こそ仕合せ。」
p.42


ハイモン「……自分でもって自分ひとりが智慧分別をもっていると思いなしたり、弁舌とか精神とかで、自分が誰よりも立ち優ろう、など考える人は、えてして、よく内まで見透されると、空っぽなのが多いものです。」
p.49


コロス「慮りをもつというのは、仕合せの
何よりも大切な基、また神々に対する務めは、
けしてなおざりにしてはならない、傲りたかぶる
人々の大言壮語は、やがてはひどい打撃を身に受け、その罪を償いおえて、
年老いてから慮りを学ぶが習いと。」
p.90


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