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片山恭一『世界の中心で、愛を叫ぶ』(小学館、2001年)の読書履歴

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 2004年1月18日、ジュンク堂書店京都店にて購入。同年1月19日より読み始め、同年1月20日読了。


本文の感想

大した衝撃はなく、表現、内容ともに際立った特異性はない。感想はB。


本文からの抜粋と注

 彼女は訝(いぶか)しそうに目を細めて、「何を考えてるの?」
「いや、別に。アキの家の人たちは、ぼくのことをどう思ってるのかな」
「どうって?」
「娘の将来の夫として認知してくれてるのだろうか」
「そんなこと考えてるわけないじゃない」彼女は笑った。
「なぜ」
「なぜって、わたしたちまだ十六よ」
「四捨五入すれば二十歳だ」
「どういう計算よ」
 ぼくはスカートの下から出ている彼女の足をぼんやり眺めていた。夕暮れの薄闇(うすやみ)のなかで、真っ白なソックスが目に眩しかった。
「わたしもよ」彼女は淡白に答えた。
「ずっと一緒にいたいから」
「ええ」
「二人ともそう思っているのに、なぜにそうはならないか」
「急に言葉づかいが変わるのね」
 ぼくは彼女の指摘を無視して、「なぜなら結婚というのは、社会的に自立した男女の合意によって成り立つものだからである。だったら病気なんかで自立できない人たちは結婚しちゃいけないのかってことになる」
「ほら、また極論に走る」アキはため息まじりに言った。
「社会的に自立するってどういうことだと思う?」
 彼女は少し考えて、「働いて自分でお金を稼ぐってことかな」
「お金を稼ぐってどういうこと?」
「さあ」
「それはつまり、社会の中で能力に応じて役割を演じるってことだよ。その報酬がお金なんだ。そえなら人を好きになる能力に恵まれている人間は、その能力を生かして人を好きになることで、お金をもらってなぜ悪い?」
「やっぱりみんなの役に立つことじゃないと、だめなんじゃないの」
「人を好きになること以上に、みんなの役に立つことがあるとは思えないけどな」
「こういう現実離れしたことを平気で言う人を、わたしは未来の夫にしようとしているんだわ」
「表面的にいくらきれいごとを言っても、ほとんどの人は自分だけよければいいと思って生きているわけだろう」ぼくはつづけた。「自分だけ美味しいものが食べられればいい、自分だけほしいものが買えればいい。でも人を好きになるってことは、自分よりも相手の方が大切だと思うことだ。もし食べ物が少ししかなければ、ぼくは自分のぶんをアキにあげたいと思うよ。限られたお金しかないなら、自分のものよりアキの欲しいものを買いたいと思う。アキが美味しいと思えば、ぼくのお腹(なか)は満たされるし、アキが嬉しいことは、ぼくが嬉しいことなんだ。それが人を好きになるってことだよ。これ以上大切なことが、他に何かあると思うかい?ぼくには思いつかないね。自分のなかに人を好きになる能力を発見した人間は、ノーベル賞のどんな発見よりも大切なことを発見したんだと思う。そのことに気づかないなら、気づこうとしていないのなら、人間なんて滅びた方がいい。惑星でもなんでも衝突して、早く滅びてしまった方がいいよ」
「朔ちゃん」宥めるように、アキがぼくの名前を読んだ。
「ちょっと頭がいいから、自分は人より偉いと思ってるやつなんて、ただの馬鹿じゃないか。そういうやつには、一生勉強してろと言いたいね。金儲(かねもう)けだって同じだよ。金儲けの得意なやつは、そればかり一生やてればいいんだ。そして儲けた金でぼくらを養ってくれればいい」
「朔ちゃん」
 二回目に名前を呼ばれて、ようやく口を噤(つぐ)んだ。アキの困ったような笑顔が間近にあった。彼女はちょっと首をかしげて、
「キスでもしませんか」と言った。


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