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マイケル・S.ガザニガ著(梶山あゆみ訳)『脳のなかの倫理―脳倫理学序説』(紀伊國屋書店、2006年)

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 2006年5月2日に北海道大学附属図書館北分館で借りる。同日中に読み始め、2006年5月3日に読み終える。


本文の感想

 著者は従来の倫理的判断はすべて非合理的なものだと冒頭で批判する。というのも、これまでの倫理的判断は、主観的・情緒的なものであったり、脳の機構と私たちの行動との関係についての事実を誤認するか無視したものであったからだ。この点についての筆者の主張は、極めて不十分で読むに耐えない。

 ただ、人文社会学系の学生が読む脳神経科学の入門書としては、よくまとまっていて読みやすいのでいいかもしれない。


本文からの抜粋と注

信仰はおそらくその物語から生まれたのだろう。そうした物語を作ることができたのは、人間がいつの時代にも善悪の判断能力を持っていたからではないか。簡単に言えば、道徳上の問題で難しい選択を迫られたとき、すべての人間が生物として同じ反応を示す、つまり人間の脳にはある種の倫理観がもともと組み込まれているという考え方を私は支持したい。そうした生得の倫理に早く気づき、特徴を明確にし、その倫理に従うことで、より充実した人生を歩み出せればいいと私は願っている。(上掲書、21頁)

 カルトか!!



世界を見てみるといくつもの国や地域で、個人の意志で作られた性比が、あるべき男女のバランスを崩して社会問題となっている。女性よりも男性がかなり多くなり始めると、社会構造そのものが危うくなる。最近まとめられた報告書によると、現状は次のようになっている。「一般に、女児100人に対して男児106人という出生性比を少しでも上回るようなら、性比を意図的に操作している証拠とみなされる。現在、性比に歪みを生じている国と地域の例を、わずかではあるが以下にあげたい(数字は最新のもの)。ベネズエラの性比は107.5、ユーゴスラヴィアは108.6、エジプト108.7、香港109.7、韓国110、パキスタン110.9、インドのデリーで116、中国117、キューバ118。コーカサス地方のアンゼルバイジャン、アルメニア、およびグルジアでは120にまで達している」[注:大統領生命倫理評議会に提出された性別選択にかんする研究報告書"Thinking about sex selection"(2002)より。http://bioethics.gov/background/background2.html参照。]

 たとえば中国で現在の性比が続けば、20年後には結婚適齢期の男性の数が女性を1500万人も上回ると予想される。性比がここまでアンバランスになれば、どんな影響が現れるだろうか。ひとつには、社会が攻撃的になることが考えられる。結婚して家庭を持つことには、人を社会生活に適合させるという効果があるのに、その輪からのけ者にされた男性は、欲求不満の捌(は)け口を求めて暴力的な行動に向うおそれがあるのだ。男の子が欲しいという個人の判断で始まったことが、最後には社会問題に発展していく。(同書、82-83頁)

 確かに女性ばかりの世界というのもおぞましいが、男ばかりの世界はむさ苦しくてもっとおぞましいように思う。自然の均衡から著しく乖離したものは、なんにせよ気持ち悪いものだ。



 ハーヴァード・大学のダニエル・シャクターは、記憶の誤りにかんするきわめて重要な著書のなかで、記憶に起こりうる基本的な実行エラーと省略エラーを解説し、それらを「記憶の七つのエラー」と呼んだ。七つとは、「消えやすさ」(時間とともに記憶が薄れたり失われたりする)、「不注意」(覚えるときに十分注意を払っていなかった)、「妨害」(「喉元まで出かかって」いるのに思い出せない)、「偽記憶の混入」(先ほどのレイプされた女性の例)、「暗示による影響」(メディアを含む他者の影響によって記憶が歪む)、「書き換え」(偏見によって記憶が編集される)、そして「つきまとい」(思い出したくない記憶が頻繁に甦ってくる)である。(同書、178頁)

 Schacter, D.L. (2001). The seven Sins of Memory, p.92.より引用されたもの。翻訳は、ダニエル・シャクター著、春日井晶子訳『なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎』(日本経済新聞社、2002年)

その他

 139-140頁にフィニアス・ゲイジの事例が紹介してある。(Nolte, J. (2002). The Human Brain: An Introduction to Its Functional Anatomy, 5th ed. (St. Louis: Mosby), pp.548-549. / Harlow, H. M. (1868), "Recovery from the Passage of an Iron Bar Through the Head," Massachusetts Medical Society Publication 2: 327.

 ハーバード大学のマーク・ハウザーという研究者がウェブ上で道徳感覚テストを行っているようなので関心のある人は一度アクセスしてみるといいかもしれない(http://moral.wjh.harvard.edu/)。


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