「代理懐胎」の版間の差分
(ページの作成: Category:応用倫理学 ==代理懐胎の倫理的問題== ===目標=== * 生殖補助医療(ART: Assisted Reproductive Technologies)のタイプを表にまとめるこ...) |
編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
[[Category:応用倫理学]] | [[Category:応用倫理学|たいりかいたい]] | ||
==代理懐胎の倫理的問題== | ==代理懐胎の倫理的問題== |
2017年6月9日 (金) 22:30時点における版
代理懐胎の倫理的問題
目標
- 生殖補助医療(ART: Assisted Reproductive Technologies)のタイプを表にまとめること
- 生殖技術(reproductive technologies)
- 産む/生ませるための技術
- 産まない/産ませないための技術
- 検査・選別のための技術
- 日本での代理母をめぐる問題について一定の提案をすること
- 最近の日本での代理母をめぐる事例をピックアップして(近日中に図書館で新聞・雑誌記事検索でもかけるべし)、種(タネ)にする。
- 代理母、ホストマザー、子宮提供者など、表現と意味内容を定めること。
代理母の論点
代理母が問題となるのは、医療技術の進歩によって代理母以外の生殖補助技術では解決できないが、代理母では解決できるような不妊問題が存在するからである。現在日本ではタレントの向井さんが海外で代理母を依頼して子どもを授かったという事件をきっかけに、諏訪マタニティクリニックでの代理母出産の件なども報道され、改めて代理母に関する国民の関心が増すとともに法制化の動きが出てきた。
この項目は、最後に論点整理するときにまとめる。
公平性
功利性
善性(道徳的な)
代理母に対する私の立場
代理母に対する私の立場は、条件つき反対である。これは、極めて消極的な是認と言い換えてもよい。また、私は代理母出産が生殖補助医療であるとの立場に立ち、代理母が認められる場合には、医療資源分配の公平性の観点から、保険の適用対象にすべきだと考えている<ref>もしかすると、代理母出産を保険の適用対象にすべきだという議論に対して、特別な補助を必要としない通常の自然分娩が自己負担であることを指摘する人がいるかもしれない。しかし、帝王切開や合併症の場合などには保険の適用対象となることをを想起されたい。</ref>。
私が代理母を是認する条件をまとめると、以下の5つになる。
- 保険の適用対象にすることなどによって、医療資源が公平に分配されること。
- 子供の福祉が十分に保障されるだけの、法的、行政的、社会的整備がなされていること(自然分娩による出産の結果産まれてくる子供には必ずしも福祉が十分に補償されていないという理由で反論されることもあるが、条件1にもあるように、これは医療行為の結果として子供を誕生させるのであるから、公共の福祉に反すること、すなわち子供の福祉が十分に補償されていない状況で子供を産ませることを医療行為の目的として遂行することはできず、子供の福祉が十分に補償されていることは代理母出産においては必要条件となる)。
- 少なくとも遺伝上の父母と分娩した母親が記せるように、戸籍上の問題を解決すること。
- 自然分娩と代理母出産によって生まれた子供を、社会保障上で差別しないこと。
- 何らかの障害を持った子供が産まれるなどの理由によって、依頼者および子宮提供者が子供の認知もしくは引き取りを拒否するなど子供の福祉に対して重大な不利益が生じることが予測し得るような一定の事態に対して、法的罰則を設けるなどの十分な整備がなされていること。
- 医療行為とは認められない代理母を禁止すること。また、それに対する法的罰則を設けること。
- 依頼者と子宮提供者の間で、金銭およびそれに代わるものの授受が行われないこと。また、それが行われた場合の法的罰則を設けること。
- 関係者(どこまでこれに含むべきかは今考え中なので、とりあえず関係者としておく)に対しリスク等を十分に説明した上で、本人が自律的に判断していること(ここら辺は、ミルの自由論なんかも引っ張ってこよう)。
一つ目の条件は、医療資源分配の公平性に関するものである。医療技術は社会的な財である。したがって、金持ちだけがそれを独占するというのは、公正ではないだろう。だから、代理母が認められるためには、この医療技術に対して誰もがアクセスできなければならず、そのための社会的制度が整っていなければならない。
二つ目の条件は、
三つ目の条件は、生命倫理の大原則である他者危害の原則、もしくは第三者にリスクを負担させないという原則に関するものである。ホストマザーが不足している状況では、経済格差から貧困層の人びとが金銭目的でホストマザーになるよう強いられたり、家族がホストマザーになるよう強いられがちである。確かに、このような現状があったとしても、愚行権を認める以上、代理母を禁止すべきはないだろう――実際に代理母を強要されることがあれば、それは法的罰則などによって処罰すべきであろう。だが、ホストマザーになるよう強いられるような状況を不要に生じさせる行為は、間接的に出あれ他者危害の原則、もしくは第三者にリスクを負担させないという生命倫理の大原則の観点から禁止されるべきである。
それゆえ、医療技術と認められないような代理母は禁止されるべきである。たとえば、出産による身体的変化を経験したくない(身体のラインが崩れるのが嫌だ)、出産に伴う身体的危険を自ら負いたくない、仕事の都合上出産は不利なのでお金を払って誰かに産んでもらいたい、オーダーメイドベイビー(こんなコトバあるのかな?)が欲しい、などがこれに含まれるだろう。
四つ目の条件は、三つ目の条件で述べた理由に加え、狭義の道徳性、すなわち善の観点から――直観主義の立場であれ、功利主義の立場であれ、あるいは徳を中心とした倫理学説の立場であれ――必要とされる条件である。これは、たとえば直観主義の立場に立てば、子供や人の生命を商品化し金銭的な損得で取引きすべきではないと主張することができるだろう。また、(規則)功利主義的な立場に立てば、金銭もしくはそれに変わるものの授受が一般的に行われている社会では、市場経済における競争原理の結果として、子供の生命は商品化され、産まれてくる[きた]子供の生命[人格]の尊厳が失われ、その子供の幸福がないがしろにされると主張することができるだろう(この主張は少々苦しいかもしれない)。さらに、徳を中心とした道徳学説の立場に立てば、金銭もしくはそれに代わるものの授受なしに代理母を依頼する、あるいは引き受けるのが有徳であると主張されるかもしれない。
五つ目の条件も狭義の道徳性の観点から必要とされる条件である。というのも、代理母に様々な危険が伴うことが現状で分かっている以上、それについて忠告することは、少なくとも道徳的義務の一つであるからだ。たとえば、直観主義の立場に立てば、この忠告は、他人に親切にするという他者に対する不完全義務である。また、功利主義の立場に立てば、より正確な功利計算もしくは不測の事態から生じる大なる不幸を予防する観点から、この忠告は義務となるであろう。さらに、徳を中心とした倫理学説の立場に立てば、このような忠告は有徳な行為の一種に数えられるだろう。
親子関係、家族関係の複雑化は時間が解決してくれるであろうし、子供の福祉については法整備で現行の法制度の下での子供と同じように保護すればよい。
代理母と依頼者との間での金銭授受およびそれに代わるものは禁止し、それでも経済的に貧しい者が経済的利益を求めて代理母になるような闇市場が出来上がらないように、代理母になることのできる資格要件に経済的に安定していることを加え、厳格な審査基準と審査漏れがないような審査プロセスを確立すること。
この際、代理母になりたい人が代理母になる権利については、次の二つの観点から認めないものとすること。すなわち、(1)それにまさる社会的便益・公衆の福祉という観点、(2)代理母に関わる技術は、生殖補助医療技術の一部として、代理母によってしか子供を産むことが出来ない人の望みを消極的に叶える、社会的に出資されて発展された技術であるという観点。代理母になることは社会的に認められた権利であるという立場を、私はとらないということである。したがって、経済的に貧しいが代理母になることを望む、という人が代理母になることを認めない。
逆に、貧しい人で代理母以外の方法では自分たちの子供を授かることができないという人は、貧しくなくてそうである人と等しく子供を授かることができなければならない。したがって、代理母を認めるためのもう一つの条件は、代理母が必要と認められれば保険制度によって誰でも代理母を通して子供を得る機会が与えられていることである。
代理母の精神衛生面と子供の福祉から、必要ならば代理母およびその配偶者もしくは遺伝上の両親は、望めばいつでも子供に会うことが認められなければならない。
障害児が生まれた場合も、そうでない場合と同様に代理母およびその配偶者と遺伝上の両親は両者間の契約を履行する義務を負うこと。この義務に違反した場合は、刑罰による社会的に罰せられるような法整備がなされること。また、どちらかもしくは両方の義務の不履行によって子供の福祉に不利益が生じないよう、法整備がなされること。
代理母になることは自発的な行為であり、ボランティアであるから、代理母によって直接的に生じたと考えられる身体的・精神的疾患については医療保険で負担するが、出産後の精神的疾患については、ホルモンバランスの崩れなど物理化学的に確認できるものを除いては自己責任とし医療費は自己負担とする。その意味で、自分で代理母をやり遂げられるだけの自信がないものは代理母になるべきではないし、代理母になるための要件に出産経験があることを加えること。出産後に病気を装って、代理母の報酬としての金銭授受ないしそれに代わることが行われる可能性も十分に排除しておくべきであるから。
以上の条件が揃えば、わたしは代理母出産を是認する。
最近の日本における代理母の話題
向井亜紀・高田延彦夫妻の代理出産@アメリカ
タレントの向井亜紀さんとプロレスラーの高田延彦さん夫妻は、アメリカ・ネバダ州在住のアイルランド系アメリカ人、シンディ・ヴァンリードさん(当時31-32歳)に代理母を依頼し、代理出産してもらった。
「高田の遺伝子を残したい」という2000年12月の記者会見での亜紀氏の発言が話題となった。
- 最高裁で出生届の受理は認められず。
配偶者の母親が孫を代理出産@諏訪マタニティークリニック
- 2005年春に出産
- 50代後半の母親ががんで子宮を摘出して子どもが産めない30代の娘夫婦の代わりに、娘夫婦の精子と卵子を使って出産
- 母親の実子として出生届を出し、娘夫婦の子として養子縁組をし、娘夫婦が養育
- 母親は閉経後で子宮が萎縮しており、リスク大だった
- 女性ホルモンを投与し、妊娠・出産。
- 母親は出産後更年期障害になった
日本における代理母をめぐる問題
代理母出産については、2003年に厚生労働省の部会(厚生科学審議会生殖補助医療部会報告書)で罰則を伴う法律で禁止するべきだとする報告書がまとめられたが、未だ法制化されていない。また、日本産科婦人科学会のガイドラインでも代理母出産は禁止されているが、拘束力はない。
そのため、日本でも一部の医療機関では代理母出産が行われている<ref>代理母出産の実施を公表しているのは、現在のところ長野県の諏訪マタニティークリニック(根津八紘院長)だけである。</ref>。
- 分娩による親子関係→民法
家族の多様化、医療技術の発達
代理母に賛成する理由
- 自分の遺伝子を受け継いだ子供を持つことは基本的な権利(とわたしは思うけど、それを合理的に説明する必要があるな。説明できないなら、これが権利かどうかについては社会的意思決定にゆだねられるのかな?だとすると、その社会的意思というのを調査する必要がある)
- 他者に危害を及ぼさない限り代理母をめぐる関係者の意志決定は尊重されるべき
代理母に反対する理由
- 代理母は産みの親、遺伝上の親、育ての親、子供にとって精神衛生上好ましくない事態を引き起こす
- 現状では代理母を受け入れるだけの社会的合意がない→理由としては弱い
- 現状では代理出産で産まれた子どもへの法的、社会的に受け入れる体制が整っていない→子どもの福祉が保障されない
- 代理母がビジネス化することで道徳的でない事態引き起こす可能性がある
- 産みの親(女性)が商品化し人間としての尊厳を失いかねない
- 子供が商品化してしまい人間としての尊厳を失いかねない
- 障害者が生まれた場合に厄介な問題を引き起こす→優生学的思想へと発展することも
- 第三者にリスクを負わせないという生殖補助医療の原則に反する
- 生殖に苦しむ家族を持つ誰かが、代理母をするようにと家族から圧力を受けること
各国(先進国とその他参考各国など)の代理母をめぐる事情
|国|法律(禁:×、容:○)|関連学会のガイドライン(禁:×、容:○)|戸籍(分娩のみ:×)| |日本|なし|×|×| |アメリカ|||| |イギリス|||| |ドイツ|||| |フランス|||| |イタリア|||| |カナダ|||| |中国|||| |韓国|||| |スペイン|||| |EU||||
資料
|~精子|~卵子|~腹|>|~備考| |自精子|自卵子|自子宮|>|通常の生殖| |自精子|自卵子|他子宮|借り腹(ホストマザー)|広い意味での代理母| |他精子|自卵子|他子宮|AID+ホストマザー|~| |自精子|他卵子|他子宮|代理母(サロゲートマザー)|~| |他精子|他卵子|自子宮|>|精子と卵子の提供| |他精子|自卵子|自子宮|>|ドナーによる人工授精| |自精子|他卵子|自子宮|>|卵子の提供| |他精子|他卵子|他子宮|>|まったく他人の子|
技術的なこと(いずれ独立)
- 卵胞ホルモン:エストラジオール
- エストラジオール製剤:プレマリンなど
- エストラジオールのお薬:エストレース
- 超高齢出産などに使う
メモ
- スペインの法制化を受けて
- 父親の遺伝的つながりと母親の遺伝的つながりに関する問題と、こどもを引き取る権利のあいだの差異について
> 根津院長は「代理出産は代理母の生活を長期間縛るため、実の姉妹間でもぎくしゃくした関係になりがちだ。だが、母親の場合は親子愛のもとでそうした問題や生んだ子を手放さないというトラブルがなく、理想的な方法だ」と述べた。(北海道新聞朝刊2006年10月16日より引用)
実の姉妹間でぎくしゃくするものが、どうして母子間であればぎくしゃくしないと言えるのか、また上記のようなトラブルがないと確実に言えるのかなど、疑問が残る。高齢出産に伴う危険が現実のものとなったときどのような状況になるのか、障害を持って子どもが産まれてきたら、流産したら、などなど。家族だからこそ、断れないという状況に追い込まれることも。
- 高齢出産のリスク
- 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や糖尿病などの合併症
- 帝王切開の場合、麻酔のリスク
閉経後の女性の出産
女性ホルモンを補充する薬で子宮内膜を作ることで出産が可能になる。
関連資料
- 向井亜紀『会いたかった――代理母出産という選択』(幻冬舎、2004年):絶版(入手済)
- Baby M, In the Matter of. 537 A. 2d 1227. (1988)
Encyclopediaのcontract pregnancyのまとめ
- Contract Pregnancy = Surrogate Motherhood~
(1) full surrogates = genetic-gestational~ (2) partial surrogates = gestational
リンク集
- 諏訪マタニティクリニック
- Yahoo!ブログ - 代理出産関連倉庫
- 日本学術会議報告書に対する抗議 遠藤直哉弁護士 - 諏訪マタニティークリニック
- 「産婦人科の世界」(2007年12月から休刊)
- 代理母出産情報センター
資料集
<references/>